「買いっぱなし」から一歩進んだ組み合わせ
コールオプションを1枚買う取引は、シンプルで分かりやすい反面、弱点もあります。プレミアムは決して安くなく、株価が動かないまま時間が過ぎれば価値は目減りし、IV(インプライド・ボラティリティ)が下がれば株価が当たっても利益が伸びないことがあります。
バーティカルスプレッドは、この弱点をやわらげるための組み合わせです。買ったオプションに対して、別の権利行使価格のオプションを売ることで、支払うコストを抑え、その代わりに利益の上限も決める――という設計に変えます。
最大の特徴は、組み立てた時点で最大利益と最大損失が両方とも確定することです。「いくらまで損するか」を先に決めてから入る戦略として、単純な買いと売りの次に学ぶ複合戦略の入り口になります。
バーティカルスプレッドの仕組み|同じ満期・違う権利行使価格の2枚
バーティカルスプレッドは、次の条件で2枚のオプションを組み合わせます。
- 同じ銘柄・同じ満期日のオプションを使う
- 権利行使価格が異なる2枚を組み合わせる(価格の階段を縦に見る形なので「バーティカル(縦)」)
- コール同士、またはプット同士の同じ種類で組む
- 1枚を買い、もう1枚を売る
上昇を見込むならコールで組むブルコールスプレッド、下落を見込むならプットで組むベアプットスプレッドが代表例です。どちらも「買う側のレッグ(足)」で方向を表し、「売る側のレッグ」でコストを回収する構造になっています。


モデルケース① ブルコールスプレッド(上昇を見込む)
では、数字で確認しましょう。以下はすべて架空のモデルケース(例)です。
モデルケースの設定
- 現在の株価は100ドル。緩やかな上昇を見込む
- 権利行使価格100ドルのコールを、プレミアム4ドルで買う
- 権利行使価格110ドルのコールを、プレミアム1.5ドルで売る
- 差し引きの支払いは (4ドル - 1.5ドル)× 100株 = 250ドル

満期時に株価がどうなっていたかで、結果は次のように分かれます。
| 満期時の株価 | 買いコール(100ドル) | 売りコール(110ドル) | 支払い済み | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 120ドル | +2,000ドル | -1,000ドル | -250ドル | +750ドル |
| 110ドル | +1,000ドル | 0ドル | -250ドル | +750ドル |
| 105ドル | +500ドル | 0ドル | -250ドル | +250ドル |
| 102.5ドル | +250ドル | 0ドル | -250ドル | 0ドル |
| 100ドル | 0ドル | 0ドル | -250ドル | -250ドル |
| 90ドル | 0ドル | 0ドル | -250ドル | -250ドル |
ポイントは2つあります。
1つ目は、株価が100ドル以下に下がっても、損失は支払った250ドルで止まることです。買いレッグが無価値になっても、売りレッグも同じく無価値になるため、それ以上は悪化しません。
2つ目は、株価が110ドル以上に上がっても、利益は750ドルで頭打ちになることです。110ドルを超えた分は、買いレッグの利益と売りレッグの損失が同じだけ増えて相殺されます。最大利益は「権利行使価格の幅(10ドル)- 支払ったプレミアム(2.5ドル)」= 7.5ドル × 100株 = 750ドルと、組み立てた時点で計算できます。
損益分岐点は102.5ドル(買いの権利行使価格100ドル + 支払った2.5ドル)です。

モデルケース② ベアプットスプレッド(下落を見込む)
下落方向はプットで組みます。構造はブルコールスプレッドの鏡像です。
モデルケースの設定
- 現在の株価は100ドル。下落を見込む
- 権利行使価格100ドルのプットを、プレミアム4ドルで買う
- 権利行使価格90ドルのプットを、プレミアム1.5ドルで売る
- 差し引きの支払いは (4ドル - 1.5ドル)× 100株 = 250ドル
| 満期時の株価 | 買いプット(100ドル) | 売りプット(90ドル) | 支払い済み | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 110ドル | 0ドル | 0ドル | -250ドル | -250ドル |
| 100ドル | 0ドル | 0ドル | -250ドル | -250ドル |
| 97.5ドル | +250ドル | 0ドル | -250ドル | 0ドル |
| 95ドル | +500ドル | 0ドル | -250ドル | +250ドル |
| 90ドル | +1,000ドル | 0ドル | -250ドル | +750ドル |
| 80ドル | +2,000ドル | -1,000ドル | -250ドル | +750ドル |
損益分岐点は97.5ドル、最大利益は750ドル(株価が90ドル以下)、最大損失は250ドル(株価が100ドル以上)です。方向が逆になるだけで、「支払った金額が最大損失」「幅から支払いを引いたものが最大利益」という計算はまったく同じです。
なお、コールで下落方向を組むベアコールスプレッドや、プットで上昇方向を組むブルプットスプレッドもあり、こちらは先にプレミアムを受け取る「クレジット型」になります。形は増えますが、2枚の組み合わせで損益の天井と床を作る、という考え方は共通です。
最大利益・最大損失が先に決まる安心感
バーティカルスプレッドの損益は、組み立てた瞬間に次の3つが確定します。
- 最大損失 = 支払ったプレミアムの差額(モデルケースでは250ドル)
- 最大利益 = 権利行使価格の幅 - 支払ったプレミアムの差額(モデルケースでは750ドル)
- 損益分岐点 = 買いの権利行使価格 ± 支払ったプレミアムの差額
損失の上限がチケット代のように固定されるのが最大の魅力です。コールやプットの単純な売り(ネイキッド売り)と違って損失が膨らみ続けることがなく、現物株を持たなくても参加できます。ポジションを持ったまま相場が荒れても、「最悪の場合はここまで」と分かっているため、判断がぶれにくくなります。
オプションの単純な買いとの違い
同じ上昇見込みでも、コール1枚の単純な買いとは性格がかなり異なります。

違いをまとめると、次のとおりです。
- コストと損失が小さい: 売りレッグのプレミアムが買いレッグの一部を相殺するため、同じ行使価格の買いだけより安く入り、最大損失も小さくなります
- IV低下の影響を受けにくい: IVが下がると買いレッグは不利になりますが、売りレッグは有利になり、影響が一部打ち消し合います。決算前後など、IVが下がりやすい局面で差が出ます
- 時間経過(シータ)の影響も受けにくい: 買いレッグの目減りと売りレッグの目減りが相殺されるため、「動かないまま時間だけ過ぎる」ダメージが単純な買いより小さくなります
- 代わりに利益も限定される: 株価が想定以上に大きく動いても、利益は売りレッグの行使価格までで頭打ちです。「大当たり」を狙う取引ではありません
- 損益分岐点が近い: コストが小さい分、モデルケースでは単純な買いの104ドル(100ドル+4ドル)に対して102.5ドルまで下がります。緩やかな値動きでも利益ゾーンに入りやすい設計です
つまりバーティカルスプレッドは、「大きく当てたい」ではなく「この範囲まで動けば十分」という見込みに合わせる戦略です。想定する値動きの幅を先に決め、その幅に合わせて売りレッグの位置を選ぶのが組み立ての基本になります。

バーティカルスプレッドの組み立て手順
銘柄と方向を決める(緩やかな上昇ならブルコール、下落ならベアプット)
満期を選ぶ(近すぎると値動きに対応できず、遠すぎるとプレミアムが高くなる)
買いレッグの権利行使価格を選ぶ(現在の株価に近いものが基本)
売りレッグの権利行使価格を選ぶ(想定する値動きの到達点に置く。幅が広いほど最大利益は大きいがコストも増える)
2枚を同時に注文する。最大損失(支払額)を最終確認してから発注する

2枚はできるだけ同時に注文するのが原則です。1枚ずつ時間差で建てると、その間に株価が動いて想定したコストで組めなくなることがあります。証券会社によっては、複数レッグを1つの注文として出す「複合注文」に対応しており、差額(ネットの価格)を指定して発注できます。
注意点
- 満期が近い・行使価格付近では値動きが荒くなる: 満期直前に株価が2つの行使価格の間にいると、最終的な損益が株価のわずかな動きで大きく変わります。満期まで持ち続けるか、途中で決済するかは先に決めておきましょう
- 売りレッグにはアサインの可能性がある: 売ったオプションが満期前に権利行使されると、想定より早く片方のレッグだけが解消されることがあります。特に配当の権利落ち日が近いコールは注意が必要です
- 手数料は2枚分: 買いと売りの両方に手数料がかかります。幅の狭いスプレッドでは手数料の割合が相対的に大きくなるため、コスト負けしない幅を選ぶことも大切です
- 利益確定は満期を待たなくてよい: 最大利益に近づいたら、満期を待たずに両レッグを決済して利益を確定するのが一般的です。最後のひと伸びを追うより、残りのリスクに見合うかを考えます
複合注文ができる証券会社を選ぶ
バーティカルスプレッドは、オプションの買いと売りを組み合わせるため、まず売りに対応している証券会社が前提になります。ウィブル証券はオプションの買い・売りの両方に対応しています。
さらに、2枚以上をまとめて発注する複合注文まで使いたい場合は、サクソバンク証券が選択肢になります。サクソバンク証券は複合戦略を扱う中上級者向けの証券会社で、複合注文に対応しています。バーティカルスプレッドの先にあるアイアンコンドル(4枚の組み合わせ)まで視野に入れるなら、複合注文の有無は口座選びの判断材料になります。各社の手数料や条件の比較は、ランキング記事も参考にしてください。

まとめ
- バーティカルスプレッドは、同じ満期・異なる権利行使価格の2枚(買い+売り)の組み合わせ
- 最大損失は支払った差額、最大利益は「幅 - 差額」。組み立てた時点で両方とも確定する
- IV低下と時間経過の影響を受けにくい代わりに、利益も限定される
- 向いているのは「この範囲まで動けば十分」という、値動きの幅を想定できる場面
- 2枚は同時に注文するのが原則。複合注文が使えると組み立てやすい
2枚の組み合わせに慣れたら、次は売りスプレッドを上下に重ねるアイアンコンドルが、同じ考え方の延長にあります。



※本記事はオプション取引に関する一般的な教育情報であり、特定の銘柄や取引を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
