
満期も行使価格もずらす、カレンダーとバーティカルの複合形
これまでに扱った2枚の組み合わせは、「ずらす軸」がひとつだけでした。バーティカルスプレッドは権利行使価格をずらし、カレンダースプレッドは満期をずらします。ダイアゴナルスプレッドは、その両方を同時にずらす組み合わせです。行使価格(縦軸)と満期(横軸)の格子の上に2枚を置くと、斜め(ダイアゴナル)の位置関係になることから、この名前で呼ばれています。
ずらす軸が2つある分、性格も2つの戦略の複合になります。行使価格をずらすことで方向の見込み(デルタ)を持てるようになり、満期をずらすことで時間価値の目減りの差(シータの差)も使えるようになります。
カレンダースプレッドが「株価が今の価格にとどまること」に賭けるのに対し、ダイアゴナルスプレッドは「株価が緩やかにこちらの方向へ動き、時間も味方する」という見込みに合わせる戦略です。その分、設計の自由度が高く、考えなければならないことも増えます。
ダイアゴナルスプレッドの仕組み|2つの軸をずらす2枚
上昇を見込むコールのダイアゴナルスプレッドは、次の条件で組みます。
- 同じ銘柄のオプションを使う
- 長期側は低めの権利行使価格のコールを買う(方向を取る土台)
- 短期側は高めの権利行使価格のコールを売る(時間価値の差を取り、コストを回収する)
- 満期は、買い側が遠く、売り側が近い
売り側の行使価格を買い側より上に置くことで、株価が売り側の価格まで上がってきたところが利益のピークになります。カレンダースプレッドの山が「今の価格」にあったのに対し、ダイアゴナルの山は「上がった先の価格」に置かれるイメージです。
下落方向はプットで鏡像に組みます(長期側は高めの行使価格のプットを買い、短期側は低めの行使価格のプットを売る)。以下のモデルケースでは、コールの形で説明します。


モデルケースで見る損益
では、数字で確認しましょう。以下はすべて架空のモデルケース(例)です。
モデルケースの設定
現在の株価は100ドル。緩やかな上昇を見込む
権利行使価格95ドルの長期コール(満期まで約90日)を、プレミアム6.4ドルで買う
権利行使価格105ドルの短期コール(満期まで約30日)を、プレミアム1.1ドルで売る
差し引きの支払いは (6.4 - 1.1)× 100株 = 530ドル

カレンダーと同じく、損益は短期側の満期を迎えた時点で評価します。その時点で売り側は消滅し、買い側には残り約60日の価値が残っています。短期満期時点の株価ごとに、長期側コールに残る価値を試算すると、次のようになります(長期側の価値は残存60日・IV30%を前提とした試算です。実際の価格は、そのときのIVなどによって変わります)。
| 短期満期時の株価 | 長期側に残る価値と売り側の精算 | 損益 |
|---|---|---|
| 70ドル | 長期側はほぼ無価値 | -528ドル |
| 80ドル | 長期側にわずかに価値が残る | -492ドル |
| 90ドル | 買い側の行使価格を下回る | -288ドル |
| 100ドル | 上昇分と時間の効果が出る | +234ドル |
| 105ドル | 売り側の行使価格に到達(ピーク) | +610ドル |
| 110ドル | 売り側の精算分だけ差し引かれる | +539ドル |
| 120ドル | それ以上はほぼ横ばいに近づく | +484ドル |
ポイントは3つあります。
- 損益の形が「右上がりの土台+売り側の価格にピーク」という複合形になることです。損益分岐点は試算で約96ドルにあり、株価がそこを超えれば利益圏に入ります。カレンダーのような左右対称の山ではなく、方向の見込みが形に表れています。
- 最大利益は売り側の行使価格(105ドル)付近で得られることです。試算では+610ドル。株価がさらに上がると、売り側の精算負担が生じる代わりに長期側の価値も増えるため、利益は緩やかに下がりながらも高い水準で持ち直します(試算では120ドルでも+484ドル)。
- 最大損失は支払った530ドルであることです(短期満期時点で長期側を決済する前提)。株価が大きく下落して長期側が無価値になれば、損失は支払額で止まります。ただし530ドルという金額自体は、カレンダーのモデルケース(130ドル)より大きくなります。買い側に本質的価値に近い部分(95ドルのコールには株価100ドルとの差=5ドルの内在価値が含まれる)まで買っているためで、方向を取る分だけチケット代が高くなる構造です。

ダイアゴナルスプレッドの損益を動かす3要素
試算の形が決まる背景には、3つのグリークスの綱引きがあります。
- デルタ(方向): 買い側のデルタが売り側より大きいため、ポジション全体では緩やかなプラス方向の感応度を持ちます。株価の上昇がそのまま追い風になる点が、カレンダーとの大きな違いです
- シータ(時間の経過): 売り側の目減りが買い側より速く、株価が横ばいでも時間の経過が利益方向に働きます。ただし買い側の内在価値が大きい分、カレンダーよりシータの効きは穏やかです
- ベガ(IVの変化): 残存期間の長い買い側がIV上昇の恩恵を大きく受けます。反対に、IVが下がると買い側の価値が目減りし、方向の見込みが当たっても利益が削られることがあります
3要素のうち、デルタとシータは見込みどおりの展開では同時に味方になりますが、ベガだけは相場環境しだいで逆風にもなります。「緩やかに上がる+時間も使う」という設計の裏で、IVの水準にも気を配る必要があるのが、この戦略の奥行きです。
カレンダースプレッドとの違い
同じ「満期をずらす」仲間同士の違いを整理すると、次のようになります。
- 行使価格: カレンダーは2枚とも同じ。ダイアゴナルは買い側と売り側でずらす
- 方向の見込み: カレンダーはほぼ中立(今の価格にとどまること)。ダイアゴナルは緩やかな方向を持てる
- 利益のピーク: カレンダーは現在の株価の位置。ダイアゴナルは売り側の行使価格の位置
- 支払額の水準: ダイアゴナルは買い側に内在価値を含む分、同じような間隔でも支払額が大きくなりやすい

「緩やかに上がりながら、時間も使いたい」という見込みは、実はカバードコールに近い発想です。買い側を現物株ではなく長期コールにした形は、後述する疑似カバードコール(PMCC)にもつながります。ダイアゴナルは、その橋渡しになる戦略だと言えます。

ダイアゴナルスプレッドの組み立て手順
方向と到達点を見込む(「緩やかに上昇し、105ドルあたりまで」がモデルケースの見込み)
買い側を決める(満期は遠く、行使価格は現在の株価より低め=内在価値を含む位置)
売り側を決める(満期は近く、行使価格は到達点に置く)
支払額を確認する(=最大損失。買い側の内在価値の分だけ大きくなることを理解しておく)
2枚を同時に注文する。短期満期の時点で「決済か、売り側の組み直しか」を先に決めておく

注意点
- 短期満期の時点で判断が必要: 短期側が満期を迎えると、長期側コールの単純な買いが残ります。決済するか、新しい短期側を売って組み直す(ロールする)かで、その後の性格が変わります。組み直しを繰り返す運用は、実質的に「長期側を土台にした継続的な売り戦略」になります
- 売り側のアサインに注意: 売った短期コールが権利行使されると株の売りポジションが発生します。買い側の長期コールを行使して株を取得し、引き渡すこともできますが、その場合は長期側の時間価値が失われる点に注意してください。配当の権利落ち日が近いコールは早期行使されやすいため、特に注意が要ります
- IV低下は逆風: 長期側の価値が目減りするため、イベント通過などでIVが大きく下がると、株価の見込みが当たっても利益が伸びないことがあります
- 設計の自由度=複雑さ: 満期と行使価格の組み合わせが無数にある分、「なぜその組み合わせにしたか」を説明できる形にしておかないと、相場が動いたときの判断がぶれやすくなります
- 手数料は2枚分: 買いと売りの両方に手数料がかかります。組み直しを繰り返す場合は、その都度2枚分(決済と新規)が必要になります

複合注文ができる証券会社を選ぶ
ダイアゴナルスプレッドは、オプションの買いと売りを組み合わせるため、まず売りに対応している証券会社が前提になります。ウィブル証券はオプションの買い・売りの両方に対応しています。
さらに、満期の異なる2枚をまとめて発注する複合注文まで使いたい場合は、サクソバンク証券が選択肢になります。サクソバンク証券は複合戦略を扱う中上級者向けの証券会社で、複合注文に対応しています。ダイアゴナルのように「価格も満期もずれた2枚」を同時に組む戦略では、片方だけ先に約定して形が崩れるリスクを避ける意味でも、複合注文の有無は実務上の差になります。各社の手数料や条件の比較は、ランキング記事も参考にしてください。
まとめ
- ダイアゴナルスプレッドは、満期と権利行使価格の両方をずらす2枚の組み合わせ
- カレンダー(時間の差)とバーティカル(方向)の複合形で、緩やかな方向の見込みを持てる
- 利益のピークは売り側の行使価格の位置。最大損失は支払った金額
- 買い側に内在価値を含む分、支払額はカレンダーより大きくなりやすい
- 短期満期の時点での判断(決済か組み直しか)が運用の本体になる
買い側の満期をもっと遠く、行使価格をもっと深くして、売り側を繰り返し組み直す形にすると、疑似カバードコール(PMCC)と呼ばれる運用になります。


※本記事はオプション取引に関する一般的な教育情報であり、特定の銘柄や取引を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
